2020/03/19 10:00

Texitile Designer: 島塚絵里さん


【PROFILE】Eri Shimatsuka

ヘルシンキ在住のテキスタルデザイナー。マリメッコをはじめ、国内外のテキスタイルブランドで活躍中。

少女期にフィンランドでのホームステイを経験し、自然豊かで物が少ないシンプルな蓉らしに憧れる。大学卒業後、沖縄本島で英語教員を務める。その間、ドキュメンタリー映画『ガイアシンフォニー』に登場する西表島の染織家、石垣昭子さんに影響を受け、テキスタイルデザインを志す。"旅芸人" を自称し、「身の回りにある些細な景色はすべてがアイディアの原泉になる」と、行く先々で受けたインスピレーションをポストカード大の紙に描きためる。HOTEL LOCUSのために「宮古島の民工芸」をテーマに描き下ろしたオリジナル図案は、みやこ下地島空港のショップとカフェのユニフォームにも採用されるなど拡がりを見せている。



▲HOTEL LOCUS 客室より



Back Story
~テキスタイルデザイナー 島塚絵里 × su+ 谷口千春 対談~


琉球王朝時代、王府によって各地域への貢納布を発注する際に用いられたデザイン画は、単なるテキスタイルデザインの枠を越え、世界に通用する新たなる様式美を創出するヒントにもなるだろう。

(「織の海道vol.04かすり別冊」より抜粋・一部省略)

 

谷口 |  su+としてHOTEL LOCUS のテキスタイルを考えたとき、宮古上布に代表される高度な絣の「技術」を伝えることは難しくても、グラフィックパターンとしての面白さや高い完成度を通じて、宮古島の歴史や文化の一端を伝えられるのではと思った。だけど偽物然としたものには絶対したくなかった。そこでパートナーとして選んだのが、沖縄の染織や文化に理解があり、テキスタイルの分野で世界的に活躍されている島塚絵里さんでした。

 

島塚  | 当初「宮古の巡る水」と「絣文様」という2つのテーマに対し、描きためていたものも含めて約60種の原案を提出しました。最終的には「KASURI」の柄2 つに、谷口さんが、ある宮古上布の織り手から聞いたという「糸を績む人の気持ちを考えたら織る手を止められない」という言葉に共鳴し、「UMU」と「AMU」の柄が加わって、4つの囮案が「宮古の民エ芸」という1 つのテーマにまとまりました。


Textile Design

UMU

苧麻(ちょま)などの繊維を細く長く撚りあわせ糸にする作業を績む(うむ)と呼びます。

布になる前の糸、糸になる前の植物繊維をイメージした柄で、自然物に最初に人間の手が加わり、無から有が生み出されるその作業には、子々孫々に連綿とつづく人間の営みにも似た尊さがあるように思います。(「産む」「海」とも語源を同じくします)

ある宮古上布の織り手の方が、「糸を績んだ人の気持ちを考えると、織らずにはいられない」とおっしゃるのを聞くと、ものづくりとは人の手から人の手へのリレーなのだと、感じずにはいられません。


AMU
宮古上布の柄の一つに「パザ」と呼ばれる網代編みのモチーフがあります。太古よりクバやアダンなどの植物を使い、生活用品を編んだことに起源を持つと推測される、宮古島を代表する柄をアレンジしました。


KASURI 
KASURI SHIMA

KASURI ICHIMATSU

あらかじめ文様にしたがって染め分けた糸を用いて織り上げた模様織物を絣(かすり)と言います。その技法は、インドで生まれてタイ・カンボジア・ベトナム・インドネシアなど東南アジア各地で発展し、1415世紀に琉球へ伝わりました。その柄一つひとつに、土地の歴史と文化に根ざした意味と名前があります。



絣の各模様について




▲苧麻糸を裂くのに使われる爪は、大切な道具の1つとして文様化されている


KASURI-ICHIMATSU」と「KASURI-SHIMA」この2つの柄では、豚の餌箱・鳥・·牛のスキ・爪・風車など、かつて宮古島の織物に頻繁に登場したモチーフを選び、その新しい魅力を伝えるべく大胆にレイアウトしています。



また、かつて宮古にはハジチ(針突き)と呼ばれる刺青文化がありました。宮古のハジチ文様は多種多様で、上布の文様を入れることもあったそうです。そうした文化からも、絣に使われているモチーフが単なる織物の柄以上に、深く生活に根ざした意味を持っていたことが伺えます。


Vol.1 Fin.