2020/03/24 08:00

Fashion Designer/ LEQUIO : 嘉数義成さん


PROFILEYoshinari Kakazu

1984年沖縄県沖縄市生まれ。母親は琉球舞踊の師匠、父親は映像カメラマン。自宅隣が琉舞道場であったため、沖縄民謡や、琉舞の衣装である色艶やかな紅型(びんがた)を身近に感じて育つ。基地がある沖縄市ではフリーマーケットが盛ん。身長や足のサイズが大きかった義成さんは外国人向けのマーケットで買い物をするのが日常で、 自宅には祖父や父が農作業や仕事着として身につける払い下げ品の軍服があったという。

高校卒業後、 県内のファッションの専門学校へ進学。リゾートウェアや軍服のリメイク等の斬新なデザインは県内外で高く評価される。25 歳の時に立ち上げた LEQUIO(レキオ)の名は沖縄に残る外国語で、大航海時代に渡来人らが琉球をそう呼んだことに由来する。小さな島国でありながらも荒波を渡り、 異国の地と貿易をして栄えた先人たちに敬意を表して名付けた。「世代を越え未来へと受け継がれる物語」をテーマに意欲的な活動を続ける義成さんに、 su+は、宮古島東海岸に仔むハイダウェイリゾートthe rescape に琉球藍で染めたテキスタイルの製作を依頼した。



循環型のアパレルを目指して


かつては沖縄県本部町の伊豆味エリアを中心に栄えた産業でありながら、 過酷な労働条件、後継者不足などから徐々に衰退していった琉球藍を、新天地で栽培し、成育した藍の葉から染料を作り、自社で商品化するという試みを、4年前からスタートしている嘉数義成さん。「きっかけは、 藍染商品の生産量を高めたいと思っても、 原料である藍を確保できなかったこと。改めて将来的な危機感を持ちました」

さっそく栽培用の士地探しを始めた義成さん。しかし、 耕作放棄地は無数にあるにもかかわらず、実績のない若者を受け入れてくれる自治体はなかった。ッテを頼ってようやく見つけたのがこの6000坪の原野。これまでの常識では、球藍の栽培に適しているとは到底考えられないような環境だったが、 藍の生育条件を入念に調べた義成さんは、ここでならやってみる価値があると判断。自宅から片道2時間かけて通い、仲間とともに開墾を開始。年々収量も上がってきたという。最近になってようやく、 地域の人にも受け入れられてきたような気がすると話す。



科学的根拠のある農法を確立するために


琉球藍の植え付けと収穫は年に2回。ともに雨が多い時期に行う。義成さんたちの実験で、 生育に関しては強光や乾燥に弱く、 通気性や保湿性がよい環境を好むことが分かっている。藍が染まるメカニズムを簡単に説明すると、刈り取った葉を水につけて放置し、 腐敗させ、 染料の成分であるインジゴを抽出する。その水に消石灰を加えることでインジゴが沈殿することで泥藍となる。この泥藍を発酵させて染色できる状態にする(藍建て)。染色液につけた衣類はグリーンだが、 空気に触れると次第にブルーヘと変化する。

けれど、 どのような微生物が藍を発酵させているのか、 インジゴを効率よく抽出し品質の良い染料に仕上げるための消石灰の分量、 琉球藍そのものの特性など、 まだまだわからない部分も多いという。これらを解明し、 次世代に藍染めをつないでゆけるよう、 効率的な栽培方法の確立と染色メカニズムの解明を目指して、 琉球大学の教授たちと共同研究を行っている。



地域の新たな産業として次の世代へ伝える


義成さんの琉球藍100%のデニムブランド「アイナリー」は、 県外、 海外からも注目を浴びており、 出荷置は年々増加している。いずれはここで染料までを作りたいと考えている。酸性士壌のこの地域は、 育つ植物が限定されるため、 他からの移入が難しく、 新しい産業が生まれにくいといわれている。琉球藍から染料を作る際、 大量の石灰水が汚水として流出するが、 アルカリによったその水を酸性の土壌に流すことで、 土壌が中和され、 これまで育てることができなかった新たな作物を栽培することもできるかもしれない。もしそれが実現するなら、 起伏のある土地の高台に染料の工場を作りたい。新たな産業が始まれば、 人が集まり、 商店や宿泊施設が必要になる。

「今はとにかく続けること。栽培した藍をアパレルで商品化し実績を作る。確かなエビデンスに裏付けされた、生産性の高い農法を確立し、 品質のいい藍を栽培する。それらが認められた時、 地元の農家さんとともにこの地域を新しい藍の産地として盛り上げていけたらいいなと思います」



Back Story
LEQUIO ファッションデザイナー 嘉数義成 × su+ 谷口千春 対談~


谷口 | the rescapeのアートテーマを模索していたとき に、LEQUIOの美しいグラデーション染めのドレスを見かけたのが始まりで した。夜が白み朝の光がさすイメージから、 自然と「循環」というテーマが浮かびあがってきた。当時、 嘉数さんが新たに挑戦中だったさざなみ絞りのサン プルを一目見て、 やはり同じテーマに行きつく感じがしま した。

 

嘉数さざなみ絞りの壁掛けアートには苦労しました。 建築中のモックアップルー ムを見て「大きく染めたい!」 と意気込んだものの、染めるための容器、 さらにそれを温 める容器を探すのに想像以上に時間がかかった。 2年ほど前の出会いから、様々な意見交換を重ねてきた。the rescapeのように、沖縄の新しい文化や産業を創っていくようなホテルが、 後に続いていくといいですね。



さざなみ絞り


▲the rescapeのアー トテ ー マは 「循環」。 寄せては返す波をイメ ージした「さざなみ絞り」や、夜が白み朝になる時間の移り変わりを表現したグラデーション染めで、ベッドス ーやクッションを制作した。



モダンな家具の中に、さざなみ絞りのクッションが有機的な雰囲気を添える。 藍染は日光に弱く経年で退色していくが、 それもある種、 自然のことわりと捉えて挑戦を決めた



さざなみ絞りのベッドスロ ーと一緒に、 海にたゆたう気分で眠りについてほしい